【創作/自作小説】闇営業をしている焼き鳥屋に行った。

おうち時間を活用して自作小説を書きました。

内容は完全フィクションです。

 

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通勤という概念が消滅して、はや2ヶ月。”退勤”感のない”退勤”を済ませると、ふと無性に焼き鳥が食べたい自分に気付いた。同居人に聞くと、彼もまたそうらしい。なるほど、外ではよく出るが家だと食べないメニューだからだろうか。

スマホで簡単なリサーチを試みる。インターネットでなんでも分かる時代になったはずだったのに、今ではGoogleで「営業中」となっていても営業しているかは確信が持てない。情報の精度が10年ほどタイムスリップしている。

8時過ぎ。コリドー街はシャッター通りと化している。昨年末、忘年会で金曜日の夜にコリドー街に迷い込み、歩けないくらい混雑していたのを思い出す。新橋へ。「ゴホン!といえば 龍角散。」との看板。今のご時世、ゴホン! は龍角散では済まなくなってしまった。

SL広場へ。人はちらほらいるが、皆帰路につくサラリーマンが駅に向かっている。まるで朝のような光景。人口密度が大きく下がってる分、射程の広さでカバーするためか、キャバクラのキャッチは自転車に乗って迫ってくる。怖い。

目星をつけていた焼き鳥屋は営業していた。真っ暗闇の飲み屋街で誘蛾灯のように1軒だけ明かりが灯っている。ガラガラと扉を開けると、狭い店内はサラリーマンや何をやってるんだかよく分からない人たちで、そこそこ人がいた。そういえば"酔っ払い"という人種を見なくなって久しい。「酔って声がデカくなってしまうおっさん」を見て、もはや慈しみにも似た感情を抱く。緩やかな背徳感を共有した心地よい店内。

時刻は8時半。サラリーマンたちが三々五々、そそくさと店を後にする。さながら通常時の終電30分前みたいな雰囲気。コロナが生んだ時差はちょうど3時間っぽい。

ねぎま、ハツ、砂肝。焼き鳥をビールで流し込む。カウンターの席に常連らしきオッさんは、店員にダル絡みをしている。「うちだといくら飲んでも全然酔えねえんだよ。だから酔いに来てんの!」と。なるほど、これが真理なのかもしれない。ササミは表面にだけ軽く焼き目がつけられ、中はほとんど生。生肉の美味しさの9割は背徳感だと思っているので、今宵のやましさはすごい。やましさオブ・ザ・イヤー受賞である。

人もまばらになった店内を出る。終電が完全に終わったような街の雰囲気。2時か3時みたいな空気が漂っているが、時刻は10時過ぎ。ガラガラの都営浅草線で帰った。